仏教はネガティブなんかじゃありません
こんなイメージをお持ちの方は少なくないかもしれません。
仏教って、死んでから先のこと――。
もちろん、それはそれで間違いではありません。でも、正しくはありません。
仏教を開いたお釈迦さま(ブッダ)は、むしろ「今、生きている私たちがどう生きればよいか」を示してくださったものであり、その延長上に、「亡くなった先のこと」を説かれているのです。
そんな「生きるための教え」である仏教に、少し触れてみましょう。
せっかくお釈迦さまが説いてくださった「生きるための」教えを、私たちの日常に生かさない手はありません。とくに大切な、柱と言える教えをいくつかご紹介します。
❶一切皆苦(いっさいかいく)
一つ目から重苦しい言葉で恐縮です。これは「世の中すべては苦しみである」ということ。
「四苦八苦(しくはっく)」と言われるように、仏教では八つの苦を挙げています。
(1)生苦(しょうく)=(輪廻の世界に)生まれ出る苦しみ
(2)老苦(ろうく)=老いる苦しみ
(3)病苦(びょうく)=病になる苦しみ
(4)死苦(しく)=死にゆく苦しみ
(5)愛別離苦(あいべつりく)=愛する者と別れなければならない苦しみ
(6)怨憎会苦(おんぞうえく)=憎むような者と出会う苦しみ
(7)求不得苦(ぐふとっく)=求めても得られない苦しみ
(8)五取蘊苦(ごしゅうんく)=自己中心的な執着による苦しみ
どれも自分の身、日常に当てはまりますね(一つ目の生苦だけは記憶にないかもしれませんが)。上に挙げたこと――老いも病も死、そのほかも――はどれも、誰も願わないものばかりです。出来れば避けたいところですが、残念ながらそれはできません。身体的、精神的、双方の苦しみというものが、この世には横たわっているのが現実であり、真実である、ということです。
お釈迦様はおっしゃいます。「一切皆苦。これはどうにもいたしかたない。世の中とはそういうものと、まずは知ることです」と。
❷諸行は無常ナリ
また、ネガティブに感じられる言葉が出てきました。「諸行」とは世の中のあらゆること、「無常」とは常に変化を繰り返している、ということ。仏教では、世界をこのように見定めます。
「祇園精舎の鐘(かね)の声、諸行無常の響きあり」。『平家物語』の有名な、あのフレーズです。栄華を極めた平家一族が滅びゆく様を表しています。
でも、この「諸行無常」、何もマイナス方向への変化のみを言っているのではありません。あくまで、「変化」です。
たしかに平家は衰退しましたが、坂を下る前は頂点に向かっていた上昇期がありました。転んで擦り傷になっても日が経てば治る、大切な人との別れもあれば、また大きな出会いもある。人の心だって、よくも悪くも変わります。青年が老いていくのは残念な変化かもしれませんが、この世が無常でなかったら、子どもが成長してたくましい青年になることもありません。
そう考えると、ほんの少し気が楽になりませんか。もし今、あなたが辛い、苦しい状態にあっても、いつまでもこのままに違いないと決めつけなくていいのです。
❷仏教は「あきらめ」の教え!?
こう書いてしまうと、「何、それ? 仏教って、やっぱりマイナス思考、ネガティブなのね」と思うかもしれません。いえ、ちょっとお待ちください。
「あきらめ」というと、深いため息をつきながら、頭をかかえて「もうダメだ・・・」と落胆し、お先真っ暗、といったイメージを持ちますね。「あきらめる」とは、もともとは仏教語。しかも、そうした「マイナス」の意味ではありません。
「あきらめる」は漢字で書くと「諦める」。これは、仏教では「ものごとを明らかにする、はっきりさせる」の意味。「真理」あるいは「さとり」ということもできます。
日々、生きていればさまざまなことがあります。いいことばかりではありません。自分にとって願わしくないこと、辛いこと、苦しいこともたくさん。そんなときは誰もが、上に書いたように落胆したり取り乱したり、不安に押しつぶされそうになったりします。それはそうです。人間は感情の動物。お互い、弱々しい存在です。
そんな私たちにお釈迦さまは、「ちょっと待って」、そう声がけをしてくれています。落胆するのも不安を感じるのも自然なことなんだけれども、一旦、気持ちを落ち着かせ、その出来事や状況を客観的、俯瞰(ふかん)的に見てみましょう、と。そう、深く深呼吸をして。
世の中は苦しみに満ちている(一切皆苦)。たとえいいことだって、永遠に続くわけではありません(諸行無常)。それはとても残念でいやなことですが、でも、諸行無常だからこそ、好転だって期待できる。大切なのは焦らないこと、決めつけないこと、そして少し長めの時間(年月)の視点でその出来事や状況を捉えてみること(諦める)。
もっとも、そうしたからといって、霧が晴れるように悩みも不安もすぐに解決、とはならないでしょう。時がたてば、変化が期待できます。前に進める「何か」が見つけられるかもしれません。
あなたの毎日に幸多きことをお祈りします。

